一般社団法人ダム工学会
 
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会長挨拶

 

令和5年度
一般社団法人ダム工学会 会長

川ア 正彦 (かわさき まさひこ)

一般財団法人ダム技術センター 研究顧問 
(前田建設工業株式会社 顧問)


会長あいさつ

この度、出水前会長の後を受けてダム工学会の第28代会長に選任されました川崎です。身に余る光栄と存じ責任の重さを痛感しているところです。出水前会長におかれてはコロナ禍の厳しい環境の中でダム工学会の会員確保と運営の強化ご尽力されましたことに感謝申し上げるとともに深く敬意を表します。

ダムを取り巻く自然・社会環境は大きく変わっています。戦後は水力発電や治水と利水を行う多目的ダムを中心にダム施設の整備等が進んできました。そして、社会・経済活動が安定化し、日本の人口は減少に転じ、ダム施設の整備も進んだことなどから、水利用の面では渇水の発生は非常に少なくなっています。農業用水はダムによる新規用水の確保は完了し、水道用水は節水機器の進展や人口減少により大都市でも想定されたほど水需要は増加していません。用水を確保し給水範囲を拡大してきた水道事業は経営基盤を強化・安定化することを目標に水道法を改正しています。
 
  一方、治水の面では気候変動の影響により洪水被害は頻発化・激甚化しており治水対策の重要性・緊急性は強く認識されています。気候変動の影響により2℃の温度上昇相当で降雨量は約1.1倍、洪水量は約1.2倍に増加することから降雨量の増加を考慮した治水計画への見直しが全国で進んでいます。治水対策として河川幅を今後2割拡大し流下能力を上げる対策は困難であるためダムや遊水地等の貯留施設により洪水を貯留する対策が最も効果的です。このため、多くの洪水調節容量を新たに確保する必要がありますが新規ダムだけでは困難であり既設ダムを活用して嵩上げ、改造するダム再開発を考えなければいけません。

  気候変動に対する治水対策を様々な各分野の関係者と一緒に考えるきっかけになったのは事前放流の開始です。利水・治水の全ダムを対象として大規模洪水が予測された場合にはあらかじめ制限水位等よりも貯水位を下げて空き容量を確保し洪水に備える事前放流が始まりました。これは利水ダムと治水ダムが協力して行う初めての治水対策であり、流域のあらゆる関係者が協働して治水対策を行う流域治水として新たな時代が始まりました。
  大規模洪水が予測されると事前放流により制限水位以下に貯水位を下げるのであれば、逆に洪水が予測されない期間は貯水位を上げて洪水調節容量を発電等に活用する弾力的なダム運用が可能です。制限水位を境界として治水容量と利水容量を各々独自に運用してきた従前のダム運用から、お互いの容量を弾力的に相互活用する試みが既設ダムの運用高度化として国土交通省で試行が始まりました。これには、降雨予測技術の発達によりアンサンブル降雨予測技術を安全で効率的なダム運用に活用できるようになった技術的背景があります。
 
 気候変動に対しては、ダム事業はその適用策である洪水調節の強化と緩和策としてCO2削減を図る水力発電の促進が重要です。
 特に水力発電は、1点目にCO2排出原単位が全電源中最小でありCO2発生が多い火力発電を水力発電に置き換えると多量の削減が可能です。2点目に水力発電は初期投資が高いが長期間の運用が可能で発電単価は原子力を含む他電源と比較して半分以下と安価です。3点目に負荷変動に対して卓越した即応力をもち秒単位の出力調整が可能です。自然エネルギーを活用する太陽光や風力発電等の出力変化には水力発電の調整力が不可欠でありこれらの特徴を持つ水力発電を再評価すべきです。このように気候変動対策として洪水調節やカーボンニュートラル達成のために水力発電をはじめとする各種の施策を今後のダム事業の柱として促進を図るべきです。

 気候変動による洪水流量の増加分をすべてダムや遊水地等で貯留すると1級河川では約70億m3の洪水調節容量が必要になり、現在完成ダムで確保している約50億m3の1.4倍の容量を新たに確保する必要があります。近年は効率的なダムサイトが減少しており、新設だけではなく既設ダムを使ったダム再開発を考える必要があります。ダム再開発では既設ダムを運用しながら堤体改造や嵩上げ工事を行うことから新設ダムの建設より技術的な難易度は高く、特に施工計画が重要です。新設ダムではダム本体を設計して施工計画を作成すれば直ちにダム本体工事を着手できますが、再開発では既設ダムの運用と工事難易度、施工の安全性等から施工計画を評価して必要に応じて設計段階まで何度もフィードバックして見直し施工計画を作り直す必要があります。今後のダム再開発を円滑に行うには仮設備や施工技術を取りまとめ、種々の技術開発にあわせて気候変動に対応したダム設計洪水流量の見直しや堤体クラック補修等の諸課題の検討が急がれます。
 
 また、良好なダムサイトに建設された既設発電ダムに治水が後乗り参加する再開発では計画やダム運用に関して電力との合意形成が最も重要です。治水が参加すると発電専用ダムに比べて管理水位が低下するため減電の発生は避けられませんが減電の金銭補償は困難であるため増電施策等の検討が不可欠になります。治水による改造・嵩上げやバックアロケの実施、堆砂対策の実施等の様々な施策を検討して治水と電力がwin・winの関係になることが重要です。
 さらに、全国いたるところでダム堆砂が進行しており堆砂対策が急務です。地形、地質・岩質、流域の状況等によって堆砂状況は異なるが、骨材利用、排砂バイパス、浚渫、掘削と運搬、土捨て場や下流河道への移動等様々な工法や新技術の開発を行い効率的な対策を早期に実施することが求められます。

 近年はダム事業数が減少しており、ダム技術の伝承やダム技術者の育成に支障がでています。発注者側ではダム経験がある職員が退職等で減少しており若手職員はダム技術を習得する現場が少なくなっています。特に、都道府県ではダム管理が中心になっておりダム建設経験がない職員でダム再開発を事業化がする必要があり支援体制が不可欠です。ゼネコンにおいてはCMEDの受験資格である15年間のダム現場経験の取得が難しく受験可能な技術者が減少しており、コンサルタントにおいてもダム再開発に必要な施工計画を知る設計者が減少しています。ダム技術の継承とダム技術者の育成について、技術取得にかかせないダム本体工事現場の効率的な活用方法や技術研究発表会の充実等を含めて各分野の方々と広く議論し実施していく必要があります。

 日頃考える課題を思いつくまま述べましたが、どれも難しく時間がかかるため少しでも今から取り組む必要があります。会員の皆様と広く議論を重ねて課題に取り組みダム工学会の発展につながるよう尽力したいと存じますので皆様のご支援、ご協力のほどよろしくお願い申しあげます。


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