一般社団法人ダム工学会
 
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ダム工学会20周年記念シンポジウム

まとめ
コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)

          

 そろそろ時間なんですが、私の方から、まとめをするという事になっていまして、後半の話を頂きましたので、なかなかまとめるのは難しいんですが、私の方から最後に話題提供だけを何枚かスライドを用意しましので、お時間を頂戴してお話ししたいと思います。


 今日、色々出てきました「長期的視点」ということで考えたときに、温暖化の話に、ダムなりダム技術、ダム工学会はどう貢献できるんだろうかという話、この際、治水、利水、エネルギーの観点だと思います。それから、いわゆる技術継承の話も伺いました、ダム工学の技術継承をどうするか、この2点について少しお話させて頂きます。


 今、いろんな温暖化の影響評価というのは、かなり進んでおりまして、日本がリードしていると思って頂いて良いと思います。色んな研究グループがありまして、その中に革新プロジェクトというのがあります。その中でいわゆる長期のモデルを回して、今世紀末の例えば25年間で、どういう降雨が発生して河川の流量がどうなるのかという事を出しています。その中で治水に関して言いますと、全国的に5〜20%ぐらい流量が増えるんではないかと予測されています。それから特に東日本、東北、北海道で、その顕著な傾向がある。それから3点目は、台風がどうなるかということで、これは結構大きな課題だと思います。一般的には、台風の数は減るというふうに言われています。ただし、巨大な台風が来るということになります。いつ来るかもわかりません、どこに来るかわかりませんが、そういう見通しがシミュレーションの中から出てきてまして、その極端現象というのはなかなか精度的に難しい現状ではあるんですが、そういうメッセージが出つつある。この辺が非常に大事なところだと思います。こういう事を踏まえますと、今日は話がありました洪水調節としてのダムの機能、いろんなメニューがあると思いますけれども、こういうものをやはり技術者として提案していく。それから安全という観点では、既存の施設について、その巨大なものに対してどこまできちっと対処できるかという観点のチェックをしていくことが大事だと思います。次に、利水です。利水は、一般的に雪の問題が非常に懸念される材料です。いろんな代表的な水系で計算したものですけど、見て頂きたいのは、例えばこれは東北の最上川です。


 この年間のいわゆる月別の平均流量、これが現在気候で、この赤が将来気候ですけれども、他に比べると、大きく変わる可能性があるという結果が出てきています。これは何かと言いますと、1月・2月に雪ではなくて、雨になってすぐ出てくる。その代わりに4月・5月に融雪が無くなって普通の川になってしまうという事で、要するに融雪出水がおきる地域でなくなるわけです。今の水の使い方は、こういう融雪をベースにした水利システムが成立しているとすると、こういう所は根本的に水の使い方を変えないといけない。変えるか、あるいは、そういうものを調節する、そのadjustする機能がどこかに必要だということになります。これがダムとしての今後の役割であり、ダムの使い方のルールの変更が必要な部分もあるかもしれませんが、そういう事が一つ出てきている。


 それからもう一つの台風に関しては、これは四国の那珂川の長安口ダムの貯水池の運用ですけれども、西の方はある意味、台風による雨の水に依存している部分があるわけです。治水と利水、両方とも諸刃の剣なんですけれども、台風が一つ来て貯水池が満杯になる。何年か前に早明浦ダムが全く空の状態から台風一発で貯まったという例がありましたけれども、台風が今後どうなるかが、実は非常に大事なポイントになってくると思います。


 そういう意味で台風の発生数が減ると、かなり洪水が減るんではないかと言われてきています。特に、「恵みの雨 台風」と書きましたけれども、要するに災害にならないけども、ダムに水をもたらしてくれるような台風というんですか、気象現象が今後どうなっていくのかということをふまえて、ダムの貯水池は容量を持っていても空のままではしょうがない訳ですので、それをどんな風に予測して、管理していくのか。こういう辺りが非常に大事なポイントではないかと思っています。


 最後、エネルギーです。エネルギーは、米田先生からも話がありましたけれども、「水力エネルギーの社会的価値が世界的に見直されてきている」と書きましたけども、日本では余り高まっていないと言いますか、余り話題にならないのが非常に残念です。ヨーロッパとかアメリカなんかは非常にやってます。非常に盛んです。それは、新エネルギーとか再生エネルギーとか言葉の問題ももちろんあると思うんですが、RPS法なんかにも課題があるとのお話を伺っていますし、それからダムについては、やはり未利用エネルギーがたくさんある。これにもっと投資をして、エネルギーとして産み出していく事が必要だろうと思います。それから、もう一点最後はノルウェーの事例なんですけれども、新エネルギー、再生可能エネルギーを安定的に社会に供給するためには、実は水力の役割が必要であるという話です。


 現在、この図に示すように国交省の管理ダム及び水資源機構の28ダムで管理用発電がされているわけですけれども、これをもう少し促進することが出来ないだろうか、という検討の事例です。


 これは、ちょっと細かいですけれども、28ダムにおいてどれくらいの出力があって、どれくらいの経済的な評価がされているかを示しています。それほど大きいものではないのですが、例えば太陽光とか風力とかに比べて、それなりの位置づけを持っているということです。ダムの管理用発電を促進するためには、経済的に回していかなければいけないという事で、当然自家消費する部分、それからいわゆる売電する部分、このあたりの再評価といいますか、促進するためのメカニズムが必要だという話です。


 次に、現状では水力発電が非常に安く評価されてますので、これをぜひ高く評価して他のエネルギーと比べていけるようにする。そういう事が水力を世の中で多く使っていくための一つの大事な視点ではないかと思います。


 賦存量としては、水力は例えば風力とか太陽光に比べても結構な割合を占める可能性があるという試算も出ています。


 これが最後です。ノルウェーの事例ですけども、ノルウェーはヨーロッパの中で実は水力大国なんですね。それで日本と同じくらいの出力を持っているんですが、注目したいのがこの後半です。ドイツなんかもそうなんですけども、いわゆる北ヨーロッパは現在風力を積極的に開発しようとしている。ただし非常に不安定な発電量なものですから、安定化させるために実は水力とペアで世の中に供給しないと、その不安定な発電源ばっかりやっても、社会的なシステムとして成立しない。いわゆるバックアップと言うんですか、その安定化させる仕組みは、実は水力であるということなんです。ノルウェーは自国の発電量を倍増させるくらい考えている。これは目標だと思いますけれども、これをやってドイツとかイギリスとかベネルクス三国が、「風力をやるんであれば、ノルウェーは水力をやる事で、セットでヨーロッパの中の安定化のためにノルウェーは貢献するんだ」という風な事を言われています。日本も水力を今後どういう形で社会的にメッセージとして出していくかという時に、こういう視点、単に水力のエネルギーを生み出すというだけではなくて、そういう再生可能エネルギーによる発電のミックスの中で水力がどのような役割を果たして行くのかという点を、もっと打ち出していく必要があるのではないかという、一つの良い事例だと思います。こういう点も是非いろんな所で情報発信していければと思って紹介させて頂きました。


 最後に一点だけ、ダム工学の技術継承ということで、建設から管理の時代へという事なんですが、それで再開発の話が出ました。システムを再構築出来る技術力が必要ではないか、そのためには、やはり柔軟な発想力、要するにマニュアル通りではなくて、色んな提案、企画力が必要だと思います。そういう点の発想力と技術力がいるのではないか、そのためにもダム工学会もいろんな分野の方が入っておられますので、工学・理学・農学・経済学・社会科学、他にも沢山あると思います。ダム工学は、そういう形の多分野の技術をベースとした総合工学だと思います。そこで、大事なのは、現在、新しいプロジェクトが余り無いため、若い方のそういう技術を発揮する場がなかなか無いというところだと思うんですけれども、やはり将来の世代が困らないように技術分野の何が必要かということを、もう少し洗い出して、それを誰が今持っていて誰に引き継いでいくのか、というような仕掛けがダム工学会にも必要になるんではないかというふうに思います。

 最後にもう一つ、実は2012年に国際大ダム会議が京都であります。その中で開催される国際シンポジウムというのを、私がお世話させて頂いていますが、その中に、テクノロジートランスファー、技術継承ということをダムの分野で、どんなふうに進めたら良いかという事をテーマとして挙げさせて頂いています。どんな話題になるかわかりませんけれども、ぜひ時間的に世代を超えて技術を継承していくことが必要であると考えてテーマ設定をしています。それから技術協力です。これは、国内だけではなくて途上国の話もありましたけども、日本が途上国を含めて、世界にどのような形で技術継承しながら技術協力していくか、こんな観点で情報発信が出来ればと思っていますので、ぜひ今日会場にお越しの方・パネラーの方を含めて、良い話題提供を日本から出来るような形でご検討頂ければ思います。

 最後に、少し時間を頂いて私の方からお話を頂きましたが、今日のメインテーマは「情報発信」、それから今後に向けて「1000年ダムの提案」という事でお話を頂きましたので、今日パネラーの方から色々お話頂いたことを参考にして、更にダム工学会の発展のために、技術向上のための働きかけをして頂ければと思います。
 それでは、パネラーの6人の先生方、それから熱心な意見発表と、ディスカッションして頂いた皆さん、それから今日ご参加して頂いた方々にお礼申し上げます。 パネルディスカッションを終了したいと思います。どうもありがとうござました。


 

 

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