一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

山本調整池・新山本調整池復旧工事見学記

 

 

1.はじめに
 ダム工学会主催の第29回現地見学会の第2日目に見学した山本調整池・新山本調整池について報告致します。
 山本調整池・新山本調整池は、平成16年10月23日18時ごろ発生した新潟県中越地震(本震M6.8)により被害を受けました。両調整池は本震震央との距離がそれぞれ約6km、約5kmと震源のごく近傍に位置しています。幸い下流に被害をもたらすような危険な状況には至りませんでしたが、堤体の上下流面に変状が生じ、水位の緊急低下が行われました。
 当日は、現地にて各調整池の見学と被災状況・復旧工事概要の説明を受けた後、新山本調整池JV事務所に戻って質疑応答を行いました。以下、見学を通して山本調整池・新山本調整池の被災状況・復旧工事の特徴として感じた事を何点か報告致します。


2.信濃川発電所の概要

 山本調整池・新山本調整池は、本震震央から約22km離れた浅河原調整池(今回見学は行っていませんが、同じく被害を受けました)を含め、それぞれJR東日本が保有する信濃川発電所の主要設備の一つです。いずれの調整池も信濃川本川にある宮中取水ダムから導水した河川水を貯留し、その水を利用して発電する水力発電所です。これら3発電所は、いずれも発生電力量として全国でも屈指の規模を有し、首都圏の朝夕ラッシュ時のピーク電力を支えているそうです。


写真1 現場説明の状況
 

 

表1 被害を受けた各調整池の諸元

項 目 浅河原調整池 山本調整池 新山本調整池
型 式 ゾーン型アースダム ゾーン型アースダム 中央遮水型フィルダム
堤 頂 291.8m  926.6m 1,392m
高 さ  37m 27.1m  42.4m
堤頂幅 6.25m 6.0m 10.0m
勾 配 上流側1:2.8〜3.0
下流側1:2.0〜2.5
上流側1:3.0
下流側1:2.5
上流側1:3.4
下流側1:2.1
竣工年 昭和20年 昭和29年 平成2年

 

3.新山本調整池の被害と復旧状況

 新山本調整池の被害状況は次のとおりです。

1)堤頂部が全体的に貯水池側へ傾斜している。その傾向は左岸側で著しい。2)堤体上流面では、全体的にダム軸とほぼ平行方向に段差地形が生じている。3)左岸側堤体上流面の水平ドレーンゾーン付近では、噴砂が11箇所で認められた。4)堤体下流面では、上流面に比べて変状が少ないが、一部に顕著なはらみ出し、堤頂部付近にダム軸に平行な亀裂や段差地形が認められた。5)地震前後で、地盤全体が50cm程度隆起し、堤体が最大80cm程度沈下した。


写真2 新山本調整池
堤体上流面の状況

 

 地震の被害箇所が左岸側に集中したことについては、左岸側上流面が震央に正対する方向に位置していたことが、被害が集中した要因だということでした。噴砂については、ドレーン層(発電時の急激な水位低下により発生する間隙水圧を消散する目的)上部の細粒分や堆泥が、ドレーン層出口を堆泥でふさがれていたため地震動により噴出したものだということでした。
 復旧工事については、原形復旧が基本ですが、ドレーン上に再び堆泥が進行しないように、調整池の流入口沿いに鋼材で水路を設置し、水流で堆泥を押し流す工夫をされているということでした。工事については、H17年5月から損傷部の掘削を開始、7月から盛立を開始し、全22万m3のうち約90%が完了しているということです。


4.山本調整池の被害と復旧状況
山本調整池の被害状況は次のとおりです。

1)堤体上流面リップラップに、ダム軸とほぼ平行に段差地形が断続的に生じている。2)堤体上流面で噴砂が7箇所で認められた。3)堤頂部にはほとんど変状が認められなかったが、右岸側の止水壁コンクリートと心壁との境界に最大1cm程度の空隙が確認された。4) 地震前後で、堤体は10〜20cm程度沈下した。
堤体上流面の段差地形については、リップラップの土台として粘性土が盛立てられていたことが原因のひとつだということです。
復旧工事については、原形復旧が基本ですが、河川構造令に準拠するよう、心壁の高さを1.3m嵩上げするということでした。工事については、H17年5月から損傷部の掘削を開始、7月から盛立を開始しており、積雪期前に完了予定とのことです。


写真3 山本調整池
堤体上流面の状況


5.おわりに
 今回のように、地震によりアースダムやフィルダムが被害を受けた場合、下流への被害防止のために速やかに貯水位を下げることが重要ですが、水位急低下させることでかえって堤体の安定性に影響を及ぼす可能性も考えられたため、対応に苦慮されたそうです。また、地震発生直後は管理所までの道路が通行できない、電力がない等により、迅速な対応ができなかったということをお聞きし、危機管理の観点からはこうした管理付属設備についても耐震性の確保が重要であるということを実感しました。

 最後になりましたが、復旧工事でお忙しい中、秋晴れの貴重な一日を割いて、本見学会で案内・説明及び質疑応答に対応して頂いたJR東日本ならびに企業体の皆様、また見学会を企画・開催して頂いたダム工学現地見学会小委員会の皆様に厚くお礼申し上げます。

[株式会社アイ・エヌ・エー 畠 康之]

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