一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

☆忠別ダム見学記☆

 

 ダム工学会主催の第28回現地見学会が6月8日〜9日の2日間にわたり開催されました。今回の現場は,忠別ダム,留萌ダム,および徳富ダムの3ダムで,ここでは,第1日目に見学した忠別ダムについて報告致します。

 忠別ダムは,旭川市から南東に約30km,大雪山国立公園の麓を流れる1級河川石狩川水系忠別川に国土交通省北海道開発局が建設中のダムで,石狩川および忠別川の洪水調節,流水の正常な機能の維持,灌漑用水,水道用水等の供給および発電を目的とした特定多目的ダムです。

  ダム型式は,河床幅が約600mと広く,全面にわたって最大層厚約40mの砂礫層が厚く堆積すること,また,貯水池内には河床砂礫,崖錐堆積物が広く分布し,コンクリート骨材またはフィル堤体材料が豊富なことから,堤頂長が885mにもおよぶ国内最大の複合ダム「重力式コンクリートダム(H=86m,V=98万m 3 )+中央土質遮水壁型フィルダム(H=78.5m,V=770万m 3 )」として建設されています。

 現在の状況は,コンクリート堤体は平成16年3月に打設完了,フィル堤体は平成16年10月に盛立を完了し,平成18年3月の試験湛水開始に向けて,ダム天端工,フィル上流面のリップラップ整形や周辺整備工事などが行われていました。

  今回の見学を通じて,忠別ダムの特徴として,「コンクリートとフィルダム」,「連続地中壁と監査廊」,「砂礫層とコア材」といった,異種の構造物や材料の“接合部”に対し,これまでに前例のない詳細な設計がなされていることが印象に残りましたので,以下に報告致します。

写真-1忠別ダム堤体(左岸下流から望む)
 


1.コンクリートダムとフィルダムの接合部

 両型式ダムの接合部の高さは76mにも及ぶため,基礎が岩盤のコンク リート部と砂礫のフィル部において,基盤の力学特性や堤体の固有周期の差異を考慮した接合部の勾配,断面形状が決定されている。その結果,接合勾配は1:0.7,断面形状はコア,フィルタ部をカバーできるよう上下流勾配を1:0.25とし,下流面についてはコンクリートダム下流面に一致させるように途中から1:0.8としている。

 また,フィルダムシェル部が接合部を巻き込む構造で,平面的にコンクリートダムの右岸側を覆う形状になっており,コンクリートダム部はフィルダムに隣接した巨大な洪水吐きのような印象を受けた。また,接合部の地震時応答変位については,砂礫を基礎とした方が大きくなるため,接合部のコア基礎は水平な岩盤基礎上に配置する等の工夫がなされている。

 

2.フィルダム連続地中壁と監査廊コンクリートとの接合部

  フィルダムの基礎となる河床部付近の砂礫層は ,透水係数1×10-4〜 10-3cm/secオーダーの高透水地盤であるため,止水処理は,グラウチングではなく,厚さ1.2m,最大壁深21.9mのRC構造連続地中壁を構築することで行われている。

 そして,連壁直上方に配置される監査廊コンクリートとの接合部については,変形挙動が互いに影響せず力学的に独立構造とするため,10cmの空間(緩衝スペース)を設け,そこに変形性に富むアスファルト 系材料を充填している。

-1  連壁と監査廊との接合部
 

これまでの盛立によって,予測変形量3cmに対し2cmの沈下が確認されているとの説明を伺った。また,連壁の上下流面と監査廊コンクリート間についても,上流側3cm,下流側5cmの空間にゴム系目地材を貼り付け,さらに耐震用ゴム製止水板を上流側面に2枚,下流側面に1枚配するなどの細部設計がなされていた。

 

3.コア敷保護工(砂礫層とコア材の接合部)

  砂礫層を連壁のみで止水すると,連壁上部に等ポテンシャル線が集中することによるコアのパイピングや,砂礫層内の高速流による底部コアの洗い流しが懸念されるため,砂礫層とコア敷の境界部にコア敷保護工としてアスファルト遮水層が設けられている。アスファルト自体は,表面遮水壁型フィルダムの遮水層として我が国でもいくつかのダムで実績があり,忠別ダムでも遮水性,変形性にすぐれた止水材料として,既往のアスファルト遮水壁とほぼ同様の配合,構造のものが採用されている。特に今回の場合には,遮水層上部は堤体コア部から拘束を受ける条件下での採用であることから,遮水層下部のトランジション層や下部砂礫層の不等沈下に対する遮水層の変形追従性について関心を持った。

 

  最後になりましたが,忠別ダムは,ダムサイトとして決して好条件とは言えない地質,水理特性を克服すべく,詳細な力学的,水理的検討に基づいた画期的な設計がなされていることが非常に印象に残りました。

 今回の見学会に際し,大変お忙しいところをご説明,ご案内頂きました北海道開発局忠別ダム建設事業所,および忠別ダム共同企業体の関係各位,そして今回,見学会のコーディネータを務めて頂いた北條団長をはじめダム工学会現地見学小委員会の皆様に厚く御礼申し上げます 。

(東京電力梶@蓮本 清二)

 

写真 - 1 

忠別ダム堤体(左岸下流から望む)

写真 -2  忠別ダム湛水池の状況

(左岸コンクリートダム天端から望む)

写真 -3  

コンクリートダム部(左岸上流から望む)

写真 -4  

フィルダム部下流面(右岸天端から望む)

 

写真 -5  

フィルダム部上流面(フィル天端から望む)

 

 

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