一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

令和2年度 ダム工学会 研究発表会・特別講演会の開催報告

 

ダム工学会 学術研究発表会小委員会

 

令和2年11月19日(木)に「令和2年度 ダム工学会 研究発表会」を開催しました。
 本年度の研究発表会は、新型コロナウイルス感染症拡大のために開催が延期されていた特別講演会と同日に、同感染症拡大防止のために発表、審査、聴講をいずれもオンラインで開催しました。発表者は4名、聴講者は約120名でした。


『研究発表会の部』

研究発表会では、堤体調査1編、交渉手法1編、環境モニタリング調査1編、堤体安全分析1編の計4編の発表がありました。

発表論文の概要は以下のとおりです。

1.  「比抵抗探査に適したフィルダム堤体内のひび割れ深さ調査用注入    材料の検討 」

国土技術政策総合研究所 河川研究部 大規模河川構造物研究室 主任研究官   小堀 俊秀

フィルダムでは地震発生等により堤頂等にひび割れが生じた場合、貯水機能への影響を確認するため、ひび割れの分布範囲とともにその深度の効率的な把握が求められる。本研究では、フィルダム堤体に生じたひび割れの深度を非破壊で効率的に把握する手法として比抵抗探査の利用を考え、ひび割れ内への注入材料として適する材料について試験により検討した。

2.  「交渉ゲームによる事前放流補償交渉の構造化」

東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻  西原 克哉

本研究では、多くの水力発電ダムを有する流域における事前放流補償の交渉を、交渉ゲーム理論の一種であるドラマ理論の枠組を応用してその構造化を試みた。交渉の参加者を河川管理者、発電事業者、流域住民の3者と仮定し、情報公開度と洪水発生前後で4つのシナリオを作成し、各々の状況下で最終的に得られる交渉結果を導出し、各参加者の利潤の差を定量的に評価した。

3.  「長良川河口堰におけるAIを活用したアユ遡上数自動計数システム   の構築」

独立行政法人水資源機構 長良川河口堰管理所 環境課 主査  田中 幹大

長良川河口堰の魚道を遡上する稚アユの計数方法について、これまでの人の目視による手動計数を自動計数化するために、AIによる画像認識技術を用いた「アユ遡上数自動計数システム」を構築した。令和2年度の本システム試行運用において実用化レベルでの有効性が確認できたため、本システムの構築とその本格運用に向けたこれまでの取組みを報告した。

4.   「ロックフィルダム堤体の地震波の伝播速度の検討」

   埼玉大学 理工学研究科 准教授   茂木 秀則

本研究では川上らによるNIOM法を用いた地震波の伝播速度解析をフィルダムの維持管理手法の一つとして展開することを目的に、奈良俣ダムにおける地震観測記録に同手法を適用して、堤体内のS波とP波の伝播速度を分析するとともに、2004年新潟県中越地震における伝播速度の経時変化に基づき堤体への影響を検討した。

発表論文は、今後、ダムの安全管理、洪水調節、環境モニタリング等に寄与するものと期 待されます。

4編の研究発表に対して、優秀発表賞選考委員会による審査が行われ、優秀発表賞として次の1編が選定され、優秀発表賞選考委員会 乗京委員長より発表されました。受賞者には、後日、賞状ならびに副賞が郵送されました。


【優秀発表賞】  

「長良川河口堰におけるAIを活用したアユ遡上数自動計数システムの構築」


独立行政法人水資源機構 長良川河口堰管理所 環境課 主査    田中 幹大

ダム工学会 小長井会長による開会挨拶 国土技術政策総合研究所 小堀氏による発表
東京大学大学院 西原氏による発表 水資源機構 田中氏による発表
埼玉大学 茂木氏による発表 優秀発表賞選考委員会 乗京委員長による優秀発表賞の発表、閉会挨拶

『特別講演会の部』

 令和2年11月19日(木)の午後、第30回特別講演会が開催されました。
 特別講演会は例年5月、通常総会後の午後に開催されていますが、今回は新型コロナウイルス感染症拡大のため開催が延期となり、研究発表会と同日に、オンラインで開催されました。
 今回の講師は、国土交通省河川環境課 津森流水管理室長と、ダム工学会理事でもある京都大学防災研究所 角教授にお願いしました。

 津森室長は、全国のダム管理を所掌されておられ、気候変動による影響で全国の広い範囲で記録的豪雨が発生している中で、さらなる水害リスク軽減に取り組まれています。
  ご講演では、「ダム管理における最近の取り組みについて」と題して、既存ダムの洪水調節機能の強化としての利水ダムを含めた事前放流等の取り組みと、「ダムの洪水調節に関する検討会」のとりまとめ結果をお話し頂きました。

以下、講演の概要を紹介します。

国土交通省 津森流水管理室長
「ダム管理における最近の取り組みについて」

○既存ダムの洪水調節機能の強化(事前放流)について
・令和元年東日本台風(台風第19号)におけるダムの防災操作の状況
 ・記録的な大雨により、国土交通省所管ダムでは、146ダムで洪水調節を実施し、このうち6ダムが異常洪水時防災操作に移行した。

・全国のダムにおいて治水機能を強化する方法
 ・全国の多目的ダム、利水ダムは約180億m3の有効貯水容量があるが、このうち洪水調節容量は約55億m3(約3割)に過ぎない。
 ・洪水調節機能の強化のためには、利水ダムを含めた事前放流が必要。

・関係省庁の連携による事前放流の実施の枠組み
 ・「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」で、国管理の一級水系について令和2年度の出水期から新たな運用を開始することを決定。
 ・令和2年4月に国土交通省が事前放流ガイドラインを策定。

・令和2年度出水期における事前放流の実施状況
 ・令和2年度において全国の計122ダムで事前放流を実施(うち63ダムが利水ダム)。

・利水ダムの治水協力を促進するための施策
 ・放流設備等改造に対する補助制度、事前放流に使用した利水容量が回復しない場合の補填制度を創設。

○ダムの洪水調節に関する検討会とりまとめ(令和2年6月)について
・異常洪水時防災操作の方法論、事前放流の方法論、情報発信の方法論について、現状の分析・課題、対応の方向性をとりまとめた。

 角教授のご専門は、ダム工学、水資源工学、総合土砂管理などで、ダムの操作に関する研究も進められています。また、ダム等に関する様々な委員会にも数多く携わっておられます。
  今回の講演では、「ダムの堆砂対策の促進に向けて(提言)」、「ダムに関する動画制作」、「大規模洪水に対するダム工学会貢献(大規模洪水対策WG)」の3つの内容についてお話し頂きました。


京都大学防災研究所 角教授
「ダムの堆砂対策の促進に向けて(提言)」

「ダム堆砂」に関する検討会
 ・全体を通じた方向性は、「迫られて、怒られながらやる土砂管理」から、「期待されて、喜ばれて、元気の出る土砂管理」へのパラダイムシフト。

・ダム管理としての堆砂対策の必要性の再定義
 ・現有の貯水容量だけでは治水・利水管理が十分ではない時代が到来。
 ・個別ダムの「維持管理」から、流域全体の観点からの「機能強化(永く賢く使う)」の堆砂対策が必要。

・ダム通砂のすすめ
 ・排砂(堆積土砂を下流へ排出)と通砂(洪水時の流入土砂をそのまま下流に通過)を区別した上で、より効果的な通砂方法の確立を目指す。

・土砂還元と河床地形管理(砂州形成)の連携
 ・砂州が年数回の洪水でリフレッシュされ、砂州内間隙を満たす伏流水が健全に維持されることが重要。
 ・通砂を行うことで好適な砂州を形成している事例がある。
 ・流域全体が「全体最適」となる土砂管理を関係者が連携して導くことが重要。

・河川維持土砂量の考え方の導入
 ・「河川維持土砂量」の概念の明確化と制度設計(ガイドラインなど)を目指す。

・堆砂対策の推進のためのオープン型マネジメント
 ・新しい分野(産業界、新技術)との連携、他学会との学術的連携等が重要。
「ダムに関する動画制作」
・ダムの防災操作(異常洪水時防災操作等)や環境対策(土砂管理等)について、説明が不十分で社会に理解されていない事例が散見される。

・一般の方やマスコミの方に少しでも理解を深めて頂くため、ダム工学会が中心となって産官学で動画を作成し、インターネットで配信中。

※動画「ダムの役割と操作〜豪雨時の備えと次の一手」及び動画「ダムの環境保全〜プラス思考の土砂管理」を放映した。
「大規模洪水に対するダム工学会貢献(大規模洪水対策WG)」
・ダム大規模洪水対策WGの検討方針及び体制
 ・大規模洪水発生後のダム効果を即時的に情報開示する方策を検討する。
 ・事前放流の洪水調節効果をさらに高める方策を検討する。

・今後の予定
 ・令和2年7月洪水における筑後川及び最上川をケーススタディとしたダムの効果分析、ダム管理者へのヒアリングにより、ダム効果を即時的に公表するための手法に関する技術的な課題を整理。
 ・令和2年の洪水における事前放流の検証を踏まえ、効果的な事前放流手法を分析し、ダム工学会として提言をとりまとめる。

・SIP「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」、Y.スーパー台風 被害予測システムの開発、統合ダム防災支援システム開発の現状報告

津森室長、角教授は、いずれも令和元年及び令和2年の洪水等の実績を踏まえ、ダム防災操作の課題や今後求められる操作や広報や、ダムの治水機能維持とともに下流河川の生態系確保の上で重要課題である堆砂対策等、ダムが抱える最新の課題と対策を、丁寧にお話し頂きました。ダム管理者やダムに関わる技術者、あるいは河川防災の関係者にとって有意義な講演であったと思います。
 最後に、ご多忙な中、資料を準備し講演して頂いた津森室長、角教授に深く感謝いたします。

ダム工学会 門松前会長による開会挨拶

国土交通省 津森流水管理室長による講演

京都大学防災研究所 角教授による講演
 
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