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ダム工学会 第26回 特別講演会の報告

           ダム工学会学術研究発表会小委員会

 平成28531(火)夕、星陵会館(東京都千代田区)において、第26回特別講演会が、通常総会に引続き開催されました。
 今回の特別講演会では、未曾有の豪雨時のダム操作について、現場の立場(当時国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所事務所長)からのお話をしていただきました。

『平成279月関東・東北豪雨における鬼怒川上流4ダムの操作について』
           講 師 国土交通省霞ヶ浦導水工事事務所
                     事務所長 田畑和寛


 

講 演 風 景 

 

 台風17号および18号に伴い99日から11日に関東地方および東北地方で発生した豪雨は、後日、気象庁により「平成279月関東・東北豪雨」と命名されるほどの記録的な大雨となり、鬼怒川の堤防が決壊するなどの大きな被害をもたらしました。
 その時、鬼怒川上流の4つのダム(川治・川俣・五十里・湯西川)では、できる限り洪水を貯める操作を行い、下流の洪水被害を大きく低減させる働きをしていました。
 ご講演の主な内容は以下のとおりです。


・降雨と水位
 台風18号及び台風から変わった低気圧に向かって南から湿った空気が流れ込んだ影響で、「線状降水帯」が発生し、記録的な大雨となった。99日から10日にかけて、栃木県日光市五十里観測所で、昭和50年の観測開始以来最多の24時間雨量551mmを記録するなど、多くの観測所で観測史上最多雨量を記録した。
 鬼怒川の河川水位も、川島地点(利根川合流点上流45.65km)で10日0時過ぎに氾濫危険水位を超過、また、平方地点(利根川合流点上流37.27km)で107時に、鬼怒川水海道地点(利根川合流点上流10.95km)で1011時に計画高水位を超過した。

・被災状況
 河川の流下能力を上回る洪水となり、7ヵ所で溢水し、101250分に鬼怒川左岸の常総市三坂町地先(利根川合流点上流21.0km付近)で堤防が決壊(関東地方の国管理河川の決壊は、昭和61年の利根川水系小貝川以来、29年ぶり。)した。
 上流でダムが洪水調節をしている時、既に下流の河道は水位が上昇し、余力がほとんど無い状態だった。

・ダムの効果
 鬼怒川上流の4つのダム(川治・川俣・五十里・湯西川)では、雨や下流の河川水位の状況を見ながら、できる限り洪水を貯める操作を行い、4つのダムで合計約1m3の洪水を貯め込んだ4つのダムの総洪水調節容量約1.25m3
 川治ダムへの流入量は、101時に最大の約1,160m3/sを記録した。その後も降雨は弱まらず、貯水位は上昇を続け、10日未明にただし書き操作開始水位に達した。鬼怒川下流の状況を考慮し、ただし書き操作を回避するため、上流の川俣ダムの放流量を抑える連携操作を実施した。また、洪水調節後は後期放流に移行せず放流量を減量、下流決壊後はさらに貯留し下流への放流量を抑えた。
 川俣ダムへの流入量は918時に最大の約635m3/sに達したが、降雨は916時をピークに弱まり、6時間程度で洪水調整を終了した。本来ならば後期放流に移行するところを、川治ダムや鬼怒川下流の状況を考慮し、空容量を活用して下流への放流量を最終的には約10m3/s(コンジットゲート最小開度 1門放流)までに抑え、貯留に努めた
 五十里ダムへの流入量は104時に既往最大の約1,410m3/sに達したが、線状降水帯が東に移動したことにより降雨もその時間をピークに弱まった。鬼怒川下流の状況を考慮し、川治ダム同様、洪水調節後は後期放流に移行せず放流量を減量、下流決壊後はさらに貯留し下流への放流量を抑えた。
 湯西川ダムへの流入量は101時に既往最大の約580m3/sに達したが、自然調節により放流量のピークはその21時間後であった。降雨は10日3時をピークに弱まっていたが、大雨特別警報発令中であり、今後の豪雨を想定して五十里ダムや鬼怒川下流の状況を考慮し、常用洪水吐きの止水ゲート全閉の検討も行なった。
 4つのダムが無い場合と比較して、4つのダムによって、鬼怒川下流(平方〜水海道)の水位を2556cm低下させるとともに、鬼怒川下流左岸の氾濫水量を概ね2/3(約5,300m3→約3,400m3)、浸水深3m以上の浸水面積を概ね1/3(約8.5km2→約3.0km2)、浸水戸数を概ね1/2(約18,000戸→約9,300戸)に減少させたという試算結果を得た。

・課題
 線状降水帯及び大雨特別警報が発表されるような雨ということもあり、降雨を予測が難しい状況でのダム操作は、全く予断を許さないものであった。また、洪水調節後、各ダムの貯水位を制限水位にまで下げるのに、最長で一週間を要したが、この間、ダム上流域には降雨が無いという幸運にも恵まれた。
 雨量予測の精度が確実でない限り、ダム管理者は実洪水時において決められたルールに従って操作することが基本原則である。今回のような予測が難しい豪雨を体験し、近年の最適操作への追求の偏重に不安と危惧を感じる。
 また、ダム情報が避難所まで伝わらないなどの問題点も明らかになった。
 ダム周辺地域でも、土砂災害により道路が寸断され住民が孤立したりしたが、そのような時に、ダム周辺地域に対してどれだけ貢献できるかが重要であり、また、実際に行なったことのPRも更なる信頼関係の醸成のためには必要である。

 洪水時のダム操作は、刻々変化する降雨や水位の状況を迅速かつ的確に判断し、下流被害の低減のため放流施設の開度を適時調節するものです。ダム管理者として果たすべき当然のことなのかもしれませんが、近年、豪雨時の操作は大きな課題にもなっており、今回の講演内容は、ダムに関する業務に携わる者として身に迫る貴重な体験談であり、今後のダム管理に資するものと考えています。
 また、配布資料(「鬼怒川ダム地域創生シンポジウム」・リーフレット「鬼怒川上流ダム群の効果」)を用い、ダムが通常時に水源地のために何ができるかを考えることと、洪水時にも水源地のために貢献していることを理解していただくことの大切さを強調されていましたが、共感するところが多くありました。

 今回のダム操作等に対して、水源地である日光市から評価されたこと、「日本ダムアワード」で大賞を受賞したことは、管理事務所の職員の皆様にとって何よりの励みとなったことと思います。

最後に、ご多忙な中、講師を引き受けて頂き、資料準備をしていただいた田畑和寛氏に深く感謝致します。
 なお、講演内容の詳細につきましては、9月発行の「ダム工学」Vol.26 No.3でご報告させていただく予定です。




※本講演会は土木学会CPDプログラムの認定を受けています。
下記よりCPDのご案内をダウンロードし、各自登録をお願いします。

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